大学2年生のとき、親しい友人と三人で個別指導塾を始めたのです。集まってきた中学生たちはそれまであまり見たことがないタイプでした。入塾の話し合いで成績を聞くと、くしゃくしゃになった紙をかばんから取り出しました。彼らが渡してくれた紙には、「24」「25」「28」という数字が並んでいます。そのすぐ横の欄には「点数」と書いてあり、「8」「10」「15」などと書いてあります。私が最初に目にした数字は、偏差値だったのです。これは相当ひどい生徒を預かってしまったな、と思いました。彼らは、ほかの学習塾で入学を認めてもらえなかったようなのです。いざ授業を始めても、生徒たちの集中力が続くのはせいぜい二〇分です。それを超えると、机を手でたたいたり、騒ぎ始めたりします。私はあきれてしまいました。しかし、勉強を強要しても仕方がないと思い、一人の生徒がトランプカードを持っていたので、長さ!五メートルほどの机をいくつか合わせて、みんなで「ダウト」や「ババ抜き」をして遊んでいました。私自身、高校生の一時期、非行少年に近い状態でした。当時、最も嫌いだったのが、上から自分を見くだしたような大人の言葉づかいや態度でした。私は、まず生徒と同じ目線で話したいと思ったのです。それと、目の前にいる生徒たちのことをくわしく知りたかったのです。何を考えて学校生活を送っているのだろう、とか、彼女はいるのかな、という具合に。それは、人を理解するという格好いいものではなかったと思います。とにかく知りたい。そんな思いだけだったように記憶しています。ある日、生徒の一人が学校のクラスのみんなで写った写真を持ってきたので、それをのぞきこんで聞いてみました。「おい、ここにいるなかでどの女子生徒が好きなんだ」「まず先生が答えろよ。そのあとで教えてやるよ」「この女の子が、かわいいと思うな」「えっ、マジで?」「今度は君が答えろよ」「あえて言えば、俺もこの子かな」生徒たちはいっせいに笑います。私が選んだのは、彼らのほとんどが憧れていた女子生徒だったのです。そのとき、心と心とが少し触れ合ったような気がしました。しばらくしたあと、ある生徒が今度学校で中間テストがあると言いました。
> 個別指導四谷学院公式サイト